広島県ふくやまで特別支援教育に携わる
関係者のHPです

寄稿 「検査」はなんのためにするんだろう?

                            

  
           「検査」はなんのためにするんだろう?
                    
                                       事務局員 永井 智樹(基幹相談支援センタークローバー)

 
 6月になり、学校が再開となって、子どもたちが元気に登校してくるようになっています。全国的に発令されていた緊急事態宣言も解除され、少しずつ以前のような景色が戻ってきていました。ただ、第2,3波に備えながら、みんな手探りで新たな日常生活を模索している日々だと思います。
 感染が拡大している時期に、話題に上っていたことの一つに「PCR検査」がありました。ウイルスは目に見えない上に、「潜伏期間が2週間もある」「無症状者もいる」ということで、今も自分が感染しているのではないかという不安を抱える人は多いと思います。さらに感染確認が遅れて重症化した方がいるというニュースによって恐怖感が増してしまった方もいるはずです。他国での実施状況の報道もあり、「積極的に実施すべき」という意見や、政府の方針への批判の声もあがっていました。
一方で「PCR検査はスクリーニングが目的はないため、実施対象者を限定して行うもの」「検査時の感染リスクもあるため、検査体制が整っていないのにやみくもに行うものではない」「欧米では医療機関の受け入れ態勢が整っていない段階で、PCR検査によって発症者を特定していたことが医療崩壊を招いた」という意見や、「感染症の法制度として保健所だけが行っているので、大学病院など実施機関を増やせるのでは?」「抗体・抗原検査をすべき」という意見もあります。すでに以前より実施機関は増え、他の検査も行われるようになってきました。
そもそもPCR検査とは、どんな目的で、何がわかる検査なのかということを調べて理解しようとしている人もいますが、「そんなことより、自分の不安をなんとかしてくれ」という人もいて、その人が置かれている状況や立場によって意見は異なります。

 支援が必要な子どもたちに行っているWISC-Ⅳ(またはⅢ)知能検査も、その目的や効能などが理解されていないと感じることがあります。「毎年受けておきたい」「今の子どもの状態を知りたい」ということで検査依頼を受けることもあります。私が勤務する基幹相談支援センタークローバーでは、新型コロナ感染拡大によって中止していた検査を再開しましたが、さっそく「就学支援委員会の審議のための検査」依頼や問い合わせも、保護者や教員から相次いで受けています。
「WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査は5歳から16歳まで基本的には同一問題を提示・発問し、何問続けて間違えるかどうかで評価していくものなので、何度も続けて実施すると被検児が問題に慣れて数値が高くなることがある。そのため再検査は2年以上(最低1年)間隔を開けることが望ましいこと」「統計的な手法を用いた数値で解釈するものであり、血液検査などの数値や、レントゲンやMRIなどの画像での評価とは異なるものであること」「再検査の数値の上がり下がりだけで“伸びた”“悪くなった”とは言い切れないこと」「今、子どもの行動で困っていること・心配していることなどがあり、この検査の評価から考えられること(知能水準が低い、高い、「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」が低い、高いなど)から手立て・方針を立てる “ものさし”として用いることが目的であること」「以前WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査を受けたことがある場合に、そのときの検査結果を今の問題に当てはめて手立てを考えられるのであれば、あえて再評価する必要はないこと」「本来、WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検「検査結果を、いくつかの支援機関での共通認識を図るツールとして用いられることあること」「『就学支援委員会』などでの判断材料や基準としても用いられていること」「医師が発達障害の診断や診療の参考にすることがあること(ただし、(神経)発達障害の診断は、DSM-5やICD-10などの診断基準に基づくものであり、WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査のプロフィールで診断名が特性されるものではないし、WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査を実施せずに診断している医師も多いこと)」これらのことを、電話の段階で説明しています。場合によっては検査をする必要がないと判断することもあります。
こちらの説明を理解していただき、検査ではなく相談として来室される方もいますが、電話越しでわかったような、わからないような反応をされる方や、中にはクローバーで検査を断られたということで、他の機関に依頼されたということを遠巻きに知ったということもありました。検査目的や趣旨について、相手にわかるように説明することが大切であることと同時に、目的や趣旨などの理由は考えようとしない人もいるという事実もあります。
実際に検査を行っている立場としては、WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査は、周囲の大人の不安の解消や安心のために行う目的ではなく、目の前の子どもの「なぜ?」を周囲の大人が考えるために、その子に協力をお願いして行っているものだと思っています。WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査をしなくても、ある程度「こうかもしれない」と考えられたらしなくてもいいものだし、WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査じゃないといけないのか、他の“ものさし”があればそれでもいいのではないかとも思っています。なにより、検査をしたら、協力してくれた子どものためにも、大人がその結果を出さないといけないはずです。
 福山特別支援教育研究会では、支援が必要な子達の「なぜ?」を、「どんなことが考えられるか」「だとしたらどんな方法があるか」を考える研修を行っています。WISC-Ⅳ(Ⅲ)知能検査も含めた各種検査などについても、「なぜ検査をするのか」「検査で何がわかるのか」という目的なども一緒に考えていきたいです。そして、その考えたことを実践し、子どもたちが「これならできる」「ここならできる」「わかってくれる、認めてくれる、どうしたらいいか一緒に考えて、教えてくれる大人がいる」ということを感じてもらえるようにしていきたいと願っています。