広島県ふくやまで特別支援教育に携わる
関係者のHPです

寄稿 この事態で思うこと~兄弟姉妹児の思い~

     この事態で思うこと~兄弟姉妹児の思い~ 
              事務局員 藤原こづえ(多機能型事業所 マーブルマール 公認心理師) 

 新型コロナウイルスによる生活や学習の制限が始まって早3ヶ月が経とうとしています。はじめは「え?友だちと会えないの?」と戸惑ったり「学校行かなくていいの?ラッキー」と思っていたかもしれない子どもたち。親たちも「一足早い春休みがやってきただけ」と思っていたかもしれません。 

 ところが、事態は次第に深刻化し、学校再休校の措置により、計3ヶ月余りの自宅学習を余儀なくされました。 

 この間、私が働いている多機能型事業所(児童発達支援・放課後等デイサービス・保育所等訪問支援)では、子ども達がゲームやYouTube等のメディア漬けになっている、学校から課題が出ているけれども教えられないし、我が子も取り組もうとしない等、保護者の方からのたくさんの悩みが寄せられていました。 

 少しでも社会とのつながりを断ち切らないよう、リズムが崩れないように、今までの積み重ねを継続できるように、と、事業所でも考えられる対策をしつつ、保護者の方が安心して通えるよう、個別対応等を徹底する等、受け入れ態勢を整えて対応してきたつもりです。そして、保護者の方の悩みに寄り添い、そうだよね、そうだよね、と対応しているうちに、5月になり新たな悩みや困り感が浮き彫りになってきたことに気づきました。 

 それは、兄弟姉妹の問題です。 

 発達に凸凹や弱さがあるから、という心配から、この子だけは事業所に通わせたいと一生懸命考えてくださっています。“この子ら”は、ある意味幸せかもしれません。学校が休校になっても、通える場所があるからです。 

でも、兄弟姉妹には通う場所はありません。小中学校はもちろん、保育所幼稚園も登所(園)の自粛要請があり、“この子ら”が事業所に通ってくる間、“お留守番”をしなければなりません。もちろん習い事も休会、お休み。自分を表現するところも、受け止めてくれるところもないのです。普段から我慢することも多いであろう子ら。「僕だって」「私だって」と主張したいのにできないでいるまだ幼い子らです。3月、4月はまだよかったのでしょうが、5月になり、我慢の限界が来ました。 

5月になり、「お兄ちゃんがどうしても一緒に来たいと言っています。どうしたらよいでしょうか」などの相談が頻発するようになったのです。 

以前から、発達障がいを抱える子の兄弟姉妹へのケアはより丁寧にすべきだ、という指摘はありました。それが、この事態により、一気に表面化した印象を受けました。 

 「いいよ。個別対応の間は一緒においでね」と受け入れ、兄弟姉妹の思いも受け止めつつの療育が始まりました。“ここは受け止めてもらえる!思いを出していいんだ!”と思った兄弟姉妹らは、思い切り感情をぶつけてきました。3ヶ月分の我慢どころか、今までの思いを全力でぶつけてきた子もいました。こちらも、少しでも満たされるよう全力で受け止めていきました。もちろん、一度来てみてどんな所かがわかると満足し、次回からは留守番を選ぶ子たちもいました。 

 ふと、ここで思ったのです。事業所に来て思いを出し受け止めてもらった子はよいのだろうが、それ以外の子らはどうなるんだろうか、と。 

6月から学校が再開すれば、そんな思いとはかけ離れた学校生活、学習が始まるでしょう。兄弟姉妹の思いは誰がどこで受け止めてくれるのでしょうか。 

発達の弱さを抱える子らは、先生にも自分の親にも丁寧に見てもらえる環境や条件がそこにあります。でも、その兄弟姉妹らもこの3ヶ月たくさんたくさん我慢しがんばってきたのです。私たち受け止める大人は、ほんの少しだけ想像力を豊かに、そうだね、がんばってきたよね、と温かく受け止める必要があるのではないでしょうか。 

みんながんばってきたのです。あなたはがんばれる(できる)というより、分け隔てなく「よう来たね」と温かく受け入れてもらえたら、これ以上ない幸せです。